正直、凍結胚を廃棄してまったく後悔しない、という人はなかなかいないと思います。
私は先日、凍結胚廃棄をクリニックに告げました。
34歳の時に体外受精で子供を妊娠、残りの胚を凍結、約5年間保管していました。
今はその時に授かった3歳の子供を育てています。
まだ延長しようかどうしようかと迷っていましたが、ある日突然その日はやってきました。
今でも心にぼんやり引っかかってはいますが、これで良かったのかなとも思っています。
凍結胚の廃棄は気が進まない
私のクリニックでは、凍結した月を更新月として、毎年保管の更新をするかの連絡がきていました。
1年間にかかる凍結胚の保管料は、私のクリニックでは5万円(税別)。
体外受精で授かった子が1歳の誕生日を迎えたら、次をどうするか相談に来てください、と言われていました。
しかし、1歳の子供を育ててみると第二子を考えるという状況ではなく、また今度考えよう、また今度考えよう、と延び延びに。
今年も戻すことはないだろうなと思いつつ、毎年5万円を払っていました。
というのも、クリニックで先生に言われた
「その年齢の卵は2度と採れない」
という言葉がずっと引っかかっていたのです。
その年齢の卵は2度と採れない
この言葉は呪縛のようについてまわりましたね。
不妊治療を経験した人ならとても重い言葉だと思います。
そう、残念ながら私たちの生殖機能は年齢を経るごとにどんどん衰えてしまうのです…
今は子供を考えられない、次の子を考えられないけれど、「いつか」欲しくなったとき
『あの時の年齢の卵は2度と採れない』と思うと、もうちょっと保管しておこうかな。と。
いつまで保管する?
保管料が負担にならないのであれば、自分が納得するまで保管しておいたほうがいいと思います。
とりあえず廃棄して、また欲しくなったときに採卵&受精させたらいいや、と思っても、
実際は年齢を重ねるごとに卵が育ちにくくなり、うまく採卵ができない、受精ができないということも多くあります。
また、再度採卵/受精するとなると、その分の費用や肉体的な負担も大きくなってしまいます。
いつか欲しくなるかもしれない、という可能性があるなら、迷いがあるなら、延長することをおすすめします。
凍結胚を廃棄した理由
私も約5年、凍結胚の保管をしてきました。
今でも完全にすっきりしているかと言われるとそうではありませんが、何年経っても多少のモヤモヤは残るものだと思います。
そんな私が凍結胚を廃棄するという決断に至ったのは、ただのタイミングとしか言いようがありません。
不妊治療をいつ辞めるかで悩むのと同じで、凍結胚も同じ悩みに直面します。
不妊治療を経て兄弟を産むイメージが湧かなかった
あくまでも私の場合ですが、不妊治療中、育児中、妻である私が90%ぐらいを担ってきたな~という思いがあり。
授かった子供は最高にかわいいのですが、もう一人となると精神的にも肉体的にもちょっときついなと思っていました。
兄弟が多いほうが楽しいだろうな、子供にとっても安心だろうなという思いもありましたが、不妊治療って本当に心身ともに疲弊するじゃないですか。
自分勝手と言われるとそうかもしれませんが、私もひとりの人間として、もう不妊治療はいいかなと思ったのです。
年齢・体力・仕事のことを考えて
それでも、あと数年したらひと段落して、「また頑張ろう」と思えるかも、「欲しい」と思えるかもと、延長を5年間続けたわけですが、私は今年38歳。
今の時点で「あと数年」となってくると、今度はどんどん出産が大変になる歳になっていきます。
今は仕事が楽しい時期でもあり、不妊治療で仕事に穴をあけることも気持ちの上で難しいなと思いました。
私の場合、過去の検査や治療の結果から、自然妊娠は望めそうもありません。
治療も必要なく、スルっと産まれてくるものならば別ですが、またあの不妊治療と出産育児の時間を繰り返すというのは、ちょっと考えることができませんでした。
環境が変わり自分が納得できた
6年目の保管延長の時期が近付いた頃、家を購入することになりました。
新しい趣味を見つけ、新しい環境で心機一転頑張ろうと思っていた矢先、クリニックから連絡がきたのです。
看護師さんが優しい声で「どうしようか?」と。
「廃棄しようと思います」と私。
それまで出てこなかった言葉がスルっと出てきてちょっとびっくりしましたが、それが自分のタイミングだったのだと思います。
「じゃあこの電話で廃棄ということで処理を進めさせてもらいますね。納得したんならそれが一番いいと思います」と看護師さんの言葉になんだかウルウル。
電話を切って初めて
「不妊治療が終わった」
と思いました。
結局のところ、私は何年経っても凍結胚を戻すことはなかったのだと思います。
でも、廃棄、という言葉がどうしても重く、自分の子供と別れる気持ちが強かったんですね。
「1人でもいるんだからいいじゃない」
「できるのになんで作らないの」
いろんな言葉をかけられましたが、子供がどうしても欲しくて3年間の不妊治療を経て体外受精で出産した私。
どの言葉も理解できます。
ただ、最終的には自分の可能不可能と向き合って、自分の一度の人生と向き合って、結果を出すのは自分自身だと思います。
凍結胚を破棄すると決めた後の心境
凍結胚を廃棄すると決めましたが、実際に既に廃棄されたのか、どう廃棄されたのかはわかりません。
凍結胚を廃棄したことで私の不妊治療は7年越しに終了したんだという思いにはなりました。
保管している間にはあった何か「安心感」のようなものはもうなくなってしまい、ちょっぴりざわついています。
そんな今の心境です。
選択肢がなくなってけじめがついた
毎年保管料を払い、選択肢を作っていたのですが、廃棄を決めたことで、今後、妊娠出産はないのだというけじめがつきました。
体外受精でないと子供を授かることができなかった私は、家族計画というものも立ちにくい状況だったので、これでやっと今後はどういう人生にしていこうということが考えられるようになりました。
お金に関しても、夫婦だけなのか、子供ひとりかふたりかで変わってきますし、できることできないことも違います。
なので、多少のモヤモヤが残っているにしろ、もう選択肢がないということは悩んでも仕方がないなと思えるようになりました。
もしもまたいつかどうしても欲しくなったら、また採卵から始めるということですが、それは自分の決断の結果ですもんね。
命の選択をした気持ちになってツラい
ただ、まだ細胞の状態とはいえ、受精し細胞分裂が既に始まった命を、自分の意思で「捨てた」という意識は残ってしまいました。
おなかに戻してあげたら自分の子供として産まれてきた可能性もあったのにと思うと、胸がキューっとなる思いがします。
それこそ毎月生理で使われなかった卵が排出されることとか、受精しなかった、着床しなかったなど、自分の意思でなくお別れしている命もありますが、凍結胚の廃棄は自分の意思ですからね。
本当に複雑な思いです。
子供の兄弟がいないことをかわいそうだなと思う日も
私の場合は、1人の子育てをしていますが、成長していくにつれ、私が兄弟を作らないことを決めたことで、この子は兄弟がいない子になるのだというのも少しひっかることがあります。
もちろん、1人っ子に1人っ子の良さ、兄弟には兄弟の良さがあるので、結局はないものねだりになるのですが、決めてしまったことでそういう申し訳ないという思いも出てきました。
いつか、子供が理解できるようになったときには、私が不妊治療をしてきた過程や気持ち、兄弟を作らないと決めたときの気持ちをきちんと伝えようと思っています。
まとめ
凍結胚を保管している方が一度は必ず「いつまで」と考えると思います。
何が正解かは選んでみないとわかりませんし、選んだら選んだでその道を正解にするしかないのだろうと思います。
もちろんお金のかかることなので、毎年厳しい選択を迫られるとは思いますが、最終的には自分の人生なので、続けられるなら、納得のいくまで保管を続けたほうがいいのかなと思います。
私も、たくさんのことを考えさせてくれ、希望をくれた凍結胚とその技術のある時代に産まれたことを感謝し、これからの人生を前向きに歩んでいきたいと思います。